川上直子、女子サッカーの未来のために

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 カナダW杯では準優勝を果たしたなでしこジャパンだが、若手主体で臨んだ東アジア杯(中国・武漢)では1勝2敗の3位に終わった。世代交代を視野に入れつつ、世界の中で勝ち続けるためには、どうすべきか。キャプテンの宮間あやが口にした「ブームを文化に」という言葉を具体化することも日本の女子サッカーには求められている。現役時代はアテネ五輪に出場し、現在は解説や子どもたちへの指導と多方面で活躍する川上直子に、なでしこの今後の課題を二宮清純が訊いた。
二宮: 今回のカナダW杯では世界各国に相当なでしこのサッカーが研究されていました。相手も「何か良いところを取り入れよう」と、なでしこみたいにパスを繋いできましたよね。なでしこが、さらに相手を上回るためには、また新たなスタイルの提案が必要になってくるのでは?
川上: そうですね。と言っても、なでしこがパワーサッカーを展開するのは難しいと思います。だから、よりパスサッカーの精度を上げていくことが大事です。そして、個人の1対1の能力を高めることです。今のなでしこは、相手を2人、3人で囲むのが当たり前になっています。海外の選手みたいに、「1人で勝負できる」「1人でボールを奪うことができる」となれば、すぐに攻撃に転じ、力を発揮できる。こうなると、なでしこのサッカーは変わってくるのではないでしょうか。

二宮: 先日、行われた東アジア杯ではメンバーをほとんど若手に切り替えて臨みました。佐々木則夫監督も「うまく行かないだろう」というのは折り込み済みだったでしょう。しかし、結果的には澤穂希や宮間あやといった実績あるメンバーが抜けた穴の大きさを実感する大会になりました。
川上: やはりW杯に出場したなでしこのメンバーからすると、全てが劣って映りますね。プレーのテンポや相手への寄せのスピードが何かスローに見えますよね。

二宮: 世界基準のスピードに達していないと?
川上: 速さもないですし、アジアの中でも当たり負けしてしまう場面も目立ちました。リオデジャネイロ五輪の後は、あの選手たちが引っ張っていかないといけない。頑張ってもらいたいという思いと同時に、不安もあります。

二宮: 東アジア杯のメンバーで、今後に期待したい選手はいますか。
川上: ゴールキーパーの山根恵里奈選手は、この間のW杯でも経験を積ませてもらって、期待されていますね。東アジア杯では若手が多い中で、もうちょっと後ろから積極的なコーチングをしてほしかったと感じました。

二宮: 山根選手は身長187センチの大型キーパーです。日本の将来を考えた場合には、体格に恵まれていたり、身体能力に秀でている選手の発掘が重要です。
川上: やっぱりスピードのある選手は、日本の武器だと思いますね。女子では、そこまで爆発的なスピードを持っている選手は、まだいませんから。

二宮: なでしこブームもあって、女子サッカーの底辺は拡大されつつあります。
川上: 男の子の中で頑張っている女の子もたくさんいますからね。でも女子の場合、そこからサッカーができる環境にいる子と、そうでない子に分かれてしまうのが現状です。

二宮: サッカーを続ける環境が、まだ不十分だと?
川上: 実力はあっても、中学校になって近くにサッカーを続けられる環境がないと、お遊びのサッカーで終わってしまいます。これは非常にもったいないことです。

二宮: レベルの高いところでプレーできないと、せっかくの才能があっても埋もれてしまいますね。
川上: なるべくレベルが高いところで経験を積めるのが一番ですが、そういうチームに通うには、学校が終わってからだと物理的に厳しい選手も多いんです。高校になると、サッカーをするために地元を離れて県外に出る選択肢もありますが、中学でそこまでする選手はほとんどいない。大事な中学3年間を少し無駄にしてしまう子が多いところが日本の女子サッカーの課題です。

二宮: W杯後、ブームが文化になるためには何が必要か、という議論が起こっています。川上さんは、どんな状態になった時に女子サッカーが文化になると考えますか。
川上: 文化にするには、まずは結果が一番大事だと思うんです。今はなでしこの試合を見てくれている人も、強くないと見てくれないでしょう。弱かったら興味もなくされる。やはり、なでしこは、ずっと強くあり続けないといけない。その上で、もっともっと競技人口が増えることですね。底辺が広がって、女子のサッカー選手がきちんとした職業として成立し、子どもたちの夢になってほしいですね。

<現在発売中の『第三文明』2015年10月号でも、川上直子さんのインタビューが掲載されています。こちらもぜひご覧ください>
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