三浦愛華(陸上・世界リレー日本代表/愛媛県競技力向上対策本部)第3回「“辞めたい”から“勝ちたい”へと変化する想い」

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「毎日辞めたいと思っていました」
 そう振り返るほど三浦愛華にとって、奈良県立添上高校陸上競技部の練習はきつかった。タイムが伸びず、自分が成長しているとの手応えも微塵も感じられなかったのだろう。
「2年生の半ばまで、ついていくのに必死でした。その頃からやっとタイムが良くなってきたという感じですね」

 彼女を指導した陸上部顧問・松井紀之によれば、「1年時はある意味、型にはめた指導」だったわけだが、三浦の成長を実感したのは「12月ごろ」だという。

「他校と合同練習をした時、全国大会に出場している選手と同じくらいのタイムで走っていた。それにより、型が大きく変化していった。2年の後半には本人にある程度練習を任せるようになりました。そのあたりからは私自身の指導法も“見守る”という方向性となっていったんです」

 

 本人は爆発的な成長というよりは、階段を一段ずつ上がっていったという感覚だろうか。「体力面、技術面がちょっとずつ上がっていったのかなと思います」。当然、記録も伸びていく。自然と「辞めたい」という思いは、消え去っていった。陸上に対する向き合い方も変わっていく。

「それまでは言われたメニューをただやっていただけでした。(陸上に対する意識が)変わってからは、どうやったら強くなれるのか、メニューを考えて練習するようになりました」

 

 記録が伸び始めた2年時。中学時代は届かなかった全国大会への道を切り拓いていく。夏の全国高校総合体育大会(インターハイ)へは、6月の近畿総合体育大会で100m7位(12秒13)と出場権を獲得できる6位までに0秒05及ばなかった。

 

「紙一重のところで届かなかったのは、指導者である僕の責任だと思っています」と松井。6位の選手に競り負けた原因を経験値に求め、三浦に第6回全国高等学校陸上競技選抜大会のスプリントトライアスロン(60m、150m、300mの3種目の総合得点を競う)という非公認種目にも積極的にチャレンジさせた。

 

 インターハイから2カ月後の国民体育大会の選手選考会、少年女子100mで優勝し、福井県で行われる国体の出場権を勝ち取った。また近畿総体の準決勝で出した12秒10というタイムで、秋に愛知・パロマ瑞穂スタジアムで行われるU18日本選手権の女子100mの参加標準記録(12秒15)を突破。国体とU18日本選手権と2つの全国大会の舞台に立つこととなった。

 

「挑戦者としてチャレンジャーの気持ちでした。初めての全国大会というのもあって、出られるだけでうれしかった」

 結果は国体が準決勝敗退、U18日本選手権が予落ちに終わったものの、スプリンターとしての前進を実感した1年だったはずだ。

 

一番条件に合う大学

「それまでインターハイに出られなかったので、最後のインターハイは“絶対出たい”と思いました」

 最終学年として迎えた2019年は奈良県総合体育大会の100mで大会新記録となる12秒05をマークした。続く近畿総体では予選1組を1位(12秒04)、準決勝1組2位(12秒17)で突破した。決勝で6位まで入ればインターハイの切符を手にできる。青山華依(大阪高2年)が日本高校歴代5位で大会新となる11秒61で優勝。三浦は1000分の7秒という僅差で3位(記録は自己ベストの11秒88)に入り、沖縄で行われるインターハイ出場を決めた。

 

 最初で最後のインターハイは100mに出場。予選9組を1位で通過(11秒80=追い風2.9m参考記録)。しかし準決勝3組8位(12秒04)で敗退に終わった。

「出せる力は出せた。でも悔しさはありました。出るからには優勝を目指していましたから」

 9月の近畿選手権では11秒70(追い風2.3m参考記録)をマークして優勝。200mと合わせて短距離2冠を達成した。追い風参考記録を含むが11秒台を複数回マークした実力者を各大学も放っておかなかったのだろう。関東を含むいくつかの大学から誘いを受けた。

 

 高校卒業後の進路は「一番条件に合う」という兵庫県にキャンパスを置く園田学園女子大学を選んだ。まず家から通えるとの理由で、関西の2大学に絞った。最後の決め手は「園田の雰囲気が私に合っていると思ったんです」という。彼女が園田の練習に参加して感じたのは、「チームが明るく、練習が泥臭い」ところである。

 

「添上の雰囲気と近かったからかもしれません」

 一時は辞めたいとまで思ったチームと似た雰囲気の大学を選んだのだから、3年の歳月で添上の印象は一変した。

 

「人間力なくして、競技力の向上なし」をモットーに掲げる添上で鍛えられた。中学、高校時代は叶わなかった日本一を目指すため、4年間で自分を成長させてくれる場所として園田を選んだのである。

 

(最終回につづく)

>>第1回はこちら

>>第2回はこちら

 

三浦愛華(みうら・まなか)プロフィール>
2002年2月14日、奈良県奈良市出身。中学生から陸上を始める。添上高校を経て園田学園女子大学に進んだ。2年時の3月には日本室内選手権女子60mで、7秒38のU20室内日本新記録をマークして優勝。3年時から日本グランプリの出雲陸上競技大会で、女子100m3連覇中。4年時にはワールドユニバーシティゲームズでは4×100mリレー日本代表に選出され、4位入賞に貢献した。今年5月の世界リレーで4×100mリレーの日本代表として出場した。100mの自己ベストは11秒45。憧れのアスリートはフィギュアスケートの浅田真央。身長158cm。

 

(文/杉浦泰介、写真/本人提供)

 

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