森和之(日本パラスポーツ協会会長)<前編>「2030年ビジョン」

facebook icon twitter icon

 公益財団法人日本パラスポーツ協会(JPSA)と日本パラリンピック委員会(JPC)の会長を兼務する森和之氏は、パラスポーツを通じた<活力ある共生社会の実現>に向け、尽力している。森氏に日本のパラスポーツの現状と課題を訊いた。

 

(写真:©日本パラスポーツ協会)

 

二宮清純: 森さんは2017年にJPSA理事とJPC副委員長に就任しましたが、パラスポーツに関わるようになったきっかけは?

森和之: JPSAの関係者からお話をいただいたのは、長く勤めた会社で顧問となった時でした。それまで海外で主にBtoB(企業間取引)の仕事をしていましたから、次はビジネスとは違ったかたちで、社会に関わりたいと思っていたんです。元々スポーツをやるのも観るのも大好きでした。私自身、前職で国際業務に携わっていたので、そこはパラスポーツにおいても力になれるのではないかと考え、引き受けさせていただきました。

 

伊藤数子: その後、2021年12月にJPSAの会長に就任しました。

: 民間からの会長就任は私で2人目。前任の鳥原光憲さんが初でした。2011年に鳥原さんが会長に就任してからの10年間が、日本のパラスポーツにとって、大きな転換期です。2015年にスポーツ庁が発足。東京パラリンピック開催を契機に、パラスポーツを取り巻く環境がずいぶん変わってきました。そして東京パラリンピックという大きな区切りを終え、私が会長を引き継ぐことになりました。

 

二宮: パラスポーツにおけるクラス分けは、大会前日の審査により、それまで戦っていたクラスから違うクラスに変更になるというケースも、選手・関係者から耳にします。

: クラス分けはパラスポーツ特有の複雑さもある分野です。少しでもパラアスリートの後押しができる様、競技ごとに違うクラス分け基準や最新の変更点などの情報を収集し、各競技団体などに提供するための拠点(正式名称:「JPCクラス分け情報・研究拠点」)をナショナルトレーニングセンター・イースト(東京都北区)内に開所しました。またクラス分けの講習会などを開き、専門スタッフの教育にも努めていきます。

 

国際舞台で存在感を

 

伊藤: センターのオープニングセレモニーの際、水泳の鈴木孝幸選手が「アスリートにとってクラスが変わることは、世界が変わるくらいの死活問題」とおっしゃっていました。それをきちんとサポートできるといいいですね。

: おっしゃる通りです。しっかりと情報を共有・精査して選手、指導者に役立てるようにしていきます。パラリンピックのルールを基本的につくっているのはIPC(国際パラリンピック委員会)。我々としては、そのルールを前提として選手の能力を開発して選手強化を図っていかなければならない。ルール変更の情報をキャッチアップしながらも、一方で自分たちがルールをつくる側に加わっていく。各国際競技団体やIPCという組織に対し、働きかけていくこと、能動的に人材を派遣していくことも我々の大きな務めだと思っています。

 

二宮: 日本人はルールを守ることは得意だけど、ルールをつくるのは苦手なところがあります。そのあたりは国際経験豊富な会長への期待が大きいんじゃないでしょうか。

: 頑張ります。おっしゃるように、日本の企業は高い技術は持っていても、インターナショナルコミュニケーションする中で、なかなか有利な立場をとっていくということが不得手です。それはビジネスの場面においても、枚挙に暇がないほどです。ルールについては効率的にキャッチアップしながら、自分たちの意志表示も明確にしていくことが大事だと思っています。

 

二宮: 国際舞台で、存在感を示していくことを重要視していくと?

: はい。ただそれだけではありません。パラスポーツの振興を通して共生社会を目指そうというのが、我々協会のビジョンの1丁目1番地になります。私も策定に関わらせていただきましたが、3年前に「2030年ビジョン」を公表しました。このビジョンは、2013年にパラスポーツの発展を目指し、公表した「障がい者スポーツの将来像(ビジョン)」「活力ある共生社会の実現」を引き続き目指すという観点から、理念やミッションを見直して新たにとりまとめたものです。パラスポーツの認知度は、東京パラリンピック開催前と開催後を比べると少し下がっています。改めて継続的に社会に対し、我々の活動をアピールしていく必要があると感じました。

 

伊藤: どのようなアピールをしていきたいとお考えですか?

: 認知度が下がったとは言っても、共生社会実現に向けた取組の道筋は様々な団体、企業に蓄積され続けています。その流れを止めずに、大きなムーブメントに変えられるか。我々は子どもに対する働きかけも重要だと捉えています。IPCが開発した教育プログラム『I’mPOSSIBLE』を活用し、パラリンピックの価値を学び、パラスポーツを通じインクルーシブな社会を目指すこと。もちろん一朝一夕にはいきませんが、これまでの活動を強化・継続していくことでポジティブな成果が生み出せると私は信じています。

 

(後編につづく)

>>「挑戦者たち」のサイトはこちら

 

森和之(もり・かずゆき)プロフィール>

公益財団法人日本パラスポーツ協会会長。1955年、東京都出身。1977年、慶應義塾大学商学部を卒業し、三菱商事株式会社に入社。パリ駐在や常務執行役員などを歴任した。2017年6月、公益財団法人日本障がい者スポーツ協会(現・日本パラスポーツ協会)理事と日本パラリンピック委員会(JPC)副委員長に就任した。2021年12月に日本パラスポーツ協会会長とJPC会長に就いた。好きなスポーツは野球、ラグビー、スキー。趣味はゴルフと旅行。座右の銘は「小事が大事。木を見て森を見る」(造語)。

 

>>日本パラスポーツ協会

facebook icon twitter icon

NPO法人STAND

公式サイトcopy icon

NPO法人STAND代表の伊藤数子さんと二宮清純が探る新たなスポーツの地平線にご期待ください。

Back to TOP TOP