第1157回 スムーズな部活の地域移行へ厳格な業者選定を

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 批判の矛先が間違っていやしまいか。それが最初に抱いた率直な感想である。こうした不祥事が原因で、部活の地域移行、指導者の民間委託への流れが停滞してしまえば、何のための部活改革だったかとなりかねない。

 

 先日、名古屋市立小学校の部活で委託業者の杜撰な対応が明らかになった。地元の東海テレビの報道(5月31日配信)によると4月以降、「来るはずの指導者が来ない」「研修を受けていない指導者がいる」といった苦情が、保護者などから多数寄せられ、名古屋市は委託先のGという業者に対し、90回もの改善指導を行っていたという。

 

 これを受け、一部の識者から「やはり部活を民間の業者に任せるのは間違っていたのではないか」「部活は、その学校の教員が責任を持ってやるべき」といった声が上がっている。何やら正しそうに聞こえるが、それは問題を先送りするだけでなく、教員にさらなる負担を強いることになりかねない。時計の針を逆に回すようなものだ。

 

 スポーツ庁が部活の段階的な地域移行を進めた背景には、少子化の進展に加え、教員の働き方改革があった。国が認定する「過労死ライン」を超える長時間労働が常態化する中、いわゆる“ブラック部活”の解消は焦眉の急だったのである。

 

 名古屋市は2020年9月から市立小学校の部活指導の民間委託事業を開始し、今年4月、16ある区のうち8つの区で委託先の業者を新たに指名した。それが不祥事を起こしたGという会社だった。

 

 変更の理由は、明らかにされていないが、ある関係者は「見積もり額が市が提示した下限の額に近かったからではないか」と推測する。要するに安かろう悪かろう、だったわけである。

 

 ただし民間業者の選定においてはコスト面が全てではないはずだ。事故を起こしていないか、トラブルを起こしていないかといった過去の実績、指導者や提供するサービスの質、子どもや保護者の評判なども判断材料にすべきだろう。いや、当然、そうしていたはずだ。

 

 また市は委託先の民間業者を選定するに際し、審査機関を設けていたともいわれる。ならば問題は、なおさら深刻だ。なぜ、いくつものプロの目がありながら、杜撰な業者が選ばれたのかについても、明らかにする義務がある。そうでなければ保護者は民間業者が運営する部活に安心して子どもたちを預けられなくなってしまう。

 

 付記すれば、今回のケースは名古屋市に特有の問題ではない。全国どこででも起きる可能性がある。部活の地域移行をスムーズに進めるためにも民間業者の選定は慎重に、そして厳格に行なわれなければならない。選定過程の透明化は言うまでもない。

 

<この原稿は24年6月5日付『スポーツニッポン』に掲載されたものです>

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